WILD THINGS
WILD MY THINGS 私のワイルドなシングス。 Vol.11 SPECIAL

N.HOOLYWOOD|DESIGNER

DAISUKE OBANA

WILD MY THINGS Vol.11

省いてはいけないファクトを残し
より快適なものに昇華させていく
時代のキーマンが愛用しているワイルドシングスを聞く、連載企画「WILD MY THINGS」。前回に続き、Vol.11もスペシャルインタビューをレポート。登場するのはN.ハリウッドのデザイナー、尾花大輔さん。ヴィンテージバイヤーとして活躍し、無類のミリタリー好きとしても知られ、2015年にはワイルドシングスとのコラボレーション、モンスターパーカが大反響。そんな尾花さんが所有するワイルドシングス。そして2022 FALL & WINTERで登場するスペシャルなアイテムを披露してくれた。
アウトドアのイメージから
ミリタリーコントラクターへ
――尾花さんがワイルドシングスを知ったのはいつの頃でしょうか?

尾花:親しい友人に「いいアウトドアブランドがある」と勧められて知ったのが、‘90年代ですかね。ただ購入したことはありませんでした。でも2000年代の中頃かな。10代からお世話になっている中野のミリタリーショップ、「レイジーキャット」の梅澤さんに「こんなのがある」とタクティカルウェアを見せてもらった。タグを見てみるとワイルドシングスで、こんなミリタリーウェアも作ってるんだと。聞けば、ワイルドシングスは女性やハンディキャップのある方の雇用にもいち早く向き合っていて、そうした実績も認められて米軍のサプライヤーとなったそうですね。アウトドアギアの実績も豊富だし、機能も試したくなり、まずはハッピースーツを購入しました。
初めて手にしたアイテムが
ハッピースーツ
尾花:それがこのハッピースーツですね。ハッピーは2着持っていて、2007年と2009年のもの。どちらも見た目はほとんど同じなんだけど、見比べるとディテールが微妙に変わっている。例えばエルボーパッチが丈夫そうな生地に変わっていたり、もしくはステッチが簡略化されていたり。こうした年式で違いがあるのも、ミリタリーのおもしろさですよね。こうやって並べて見比べていると、高校時代にヴィンテージデニムを並べて、年式をチェックしてた頃を思い出します(笑)。
――尾花さんならではの目線ですよね。日常のなかでは着られていましたか?

尾花:よく着ていましたよ。僕は車移動が多いので、ロングよりもショート丈のアウターの方が便利なんですよ。当時、一番着たアウターだったかもしれません。ショート丈の温かいアウターというとMA-1やダウンジャケットになりがちだけど、それとはまた違った選択肢であることもよかったですね。軽くて温かい、水濡れにも強いし、ポケットから裾のドローコードも締めれて、とにかくイージーケアで便利。ファッションとして考えられたモノではなく、ミリタリーウェアという出自も、逆に着こなしでのファッション性を高めたような気がします。今では定番的な支持がありますもんね。コヨーテもキレイな色をしてますよね。
2007 HAPPY SUITS
2009 HAPPY SUTS
2007 HAPPY SUITS PANTS
上の写真が、尾花さんが初めて購入したワイルドシングス、2007年製の通称「ハッピースーツ」。アメリカ軍のレイヤリングシステム、ECWCSにて一番外に着るレベル7のアウターだ。中綿には優れた保温性を誇り、雨にも強いプリマロフトを。シェルにはNextec社が開発した撥水透湿生地、エピックを使用している。下の写真のパンツは、ハッピースーツのセットアップとなるオーバーパンツ。両サイドが裾からウエストまでフルオープンとなり、オーバーパンツならではの着脱しやすい作りも特徴。
非常に希少なデジタルカモを所有し
2022 FALL & WINTERにてサンプリング
尾花:あとミドルレイヤーにもなる薄手のアウターでいえば、アメリカ海兵隊が着用していた、マーパットカモのスノーパーカですね。
――このデジタルスノーカモは、サープラス市場でも滅多に出回ることがないコレクターズアイテムですよね。

尾花:そう、これはスノーカモが気に入って、こちら(写真右)2022秋冬のN.ハリウッド TPES(テストプロダクト エクスチェンジサービス)のフリースでサンプリングしました。TPESではリアルなミリタリーウェアをもとに、いろいろな年式のディテールを調べて、より快適なスペックに昇華させて、米軍に納入するプロダクトを想定したコレクション。だから必ずリアルなミリタリーのディテール、スペックを使い、または僕らが考えるクロスオーバーの仕様を盛り込んでいます。スノーカモをフリースに落とし込んだり、 蓄光仕様のミルスペックを取り入れ、タウンユースしやすいモノトーンに仕上げている点がTPESのアップデートですね。もちろん、最初にワイルドシングスで作ったハッピースーツもTPESです。
2014 SNOW MARPAT PARKA
マーパットとは「Marine pattern」の略称で、アメリカ海兵隊で導入されたデジタルカモ。採用期間が短いうえに、スノーカモが非常に珍しい。薄手のナイロンシェルで、衿にフードを内蔵。ウィンドシャツのような感覚でも着ることができる。
他にはないビッグシルエットに
惚れ込んだモンスターパーカ
――次はきっと多くのファンが見てみたい、ヴィンテージのモンスターパーカですね。いつ頃のものですか?

尾花:これはセクリの2006年のものですね。サイズはミディアムなんだけど、やっぱりレベル7のオーバーコートだから、だいぶ大きいですよね。前後差の大きいフィッシュテールも特徴的。買った当時から、僕はこれくらい大きいシルエットが、断然かっこいいなと思ってたんです。それから2015年の秋冬に、コントラクターとして実績のあったワイルドシングスと別注で作ることにしました。僕がそのままのシルエットで作ろうとすると、うちのセールスチームから「大きすぎる」という意見が出てね。でも僕は「絶対、ヴィンテージのままのサイズがいい。そうじゃないと意味がない」とかなり反発したんだけど、最後は負けました(笑)。
――ビッグシルエットが全盛の今ならまだしも、2015年だとやはり大きい印象だったのでしょうね。

尾花:そうですよね。だからほんのりコンサバなシルエットになってる。個人的には布団をまとってるような、他にはないシルエットが好きだったんだけどな。僕からするとフォルムもデザインの一部なので。
――なるほど。ただここから、さらにモンスターパーカの人気に火が付いたような印象もあります。リアルにはない都会的なブラックも新鮮でしたし。

尾花:リアルなディテールはほぼ変えずに、ブラックというのもよかったのかもしれませんね。ただリベンジじゃないですけど(笑)、2022年の秋冬では、時代も相まってフォルムを変えずに新たな別注を作りました。
2006 MONSTER PARKA
2015 N.HOOLYWOOD TPES × WILD THINGS
尾花さんが所有するモンスターパーカは、最初期のジェネレーション2のもの。こちらをもとにした2015年発売の別注モンスターパーカは、実用的なディテールを継承しつつ、ミニマルに洗練された表情も兼ね備えて大反響を呼んだ。
ヴィンテージのショートモンスターを
ベースに新たなコラボレーションを作製
尾花:まずこちらのグレーが、2010年のモンスターパーカのショートです。
――長丈が一般的なモンスターパーカのなかでは珍しい、ショートタイプですね。

尾花:おそらく長丈である必要がない、環境で着るために作られたのでしょうね。あと大きな違いはフード。ロングはスタンドカラーに内蔵しますが、ショートは着脱式なんですよね。フードを被る環境の違いを、想定したディテールがニクい。ショート丈はタウンユースにも使いやすいし、またワイルドシングスのインラインにもないと聞いて、別注したのがこちらです。
2010 MONSTER PARKA SHORT
モンスターパーカショートは、たっぷりとしたシルエット、ディテールや仕様はほとんど変わることなく短丈化。ただロングと違い、フードサイズがやや大きく、着脱式であることが異なる。
2022年12月発売予定
N.HOOLYWOOD TPES × WILD THINGS

ショートモンスター
SHORT MONSTER
中綿にプリマロフト、シェルには防水透湿素材のPertex Equilibrium®を使用。ライニングには大ぶりなメッシュポケットとファスナーポケットを備えて、収納力にも優れる。フードは尾花さん所有の、ヴィンテージと同じ着脱式だ。
――N.HOOLYWOOD TPES × WILD THINGSのショートモンスターは、尾花さんが所有する一着がベースになっているんですよね?

尾花:そうですね。今回は2015年と違って、パターンニング、シルエットはヴィンテージとほぼ同じ、ゆったりしたものとなっています(笑)。ショート丈にブラックも街で使いやすく、TPESらしさも具現化できたと思いますね。ディテールもほとんど同じなんですが、大きく違うのはスペックのラベルをベルクロで着脱できること。はじめは袖に付いていますが、外して裏地のメッシュポケット内側に付けることができ、よりミニマルな雰囲気で着ることもできます。パンツはショートモンスターとセットアップで作ったもの。これも僕が所有するワイルドシングスのオーバーパンツをベースにしながら、中綿を起毛メッシュに替えて、街でも暑すぎずに着られるようにしています。
尾花氏が見た2022 FALL & WINTER ワイルドシングスのモンスターパーカ’22
尾花:ワイルドシングスのインラインのモンスターパーカも、非常に人気がありますよね。ミリタリーの雰囲気はそのままに、よりタウンユース向けに改良されているそうで。そしてパラシュート装備に見られる、ショルダーストラップも付いているんですね。
――袖を抜いて背負えるショルダーストラップは、ユーザーの方からも好評ですね。

尾花:なるほど。それにこのブルー、すごくいい色ですね。
――ありがとうございます、新色のアイアンブルーですね。尾花さんは昔ながらのミリタリーから精通していますが、現代的なタクティカルウェアはどう見られていますか?

尾花:僕は今では、古いものも新しいものも、どちらも好きですね。ただ新しいものが出てきたときには、だいたい違和感が満載なんですよ(笑)。例えばECWCSといったハイテクなものが出始めてきたときとか。でもそれは、自分が知っていることに対してのアレルギーなんです。そしてアレルギーが出たってことは、その裏側に受け入れられないという気持ちと興味が同居していることなんですよね。
――なるほど。おっしゃる通りかもしれません。

尾花:だから僕はあえて、そうしたものを買って使い続けるようにしている。すると実際は好きなことに気付けるものがあります。そんなアイテムの省いてはいけないファクトを残しながら、「あったらいいな」という快適なものへ昇華させていく。これはTPESの使命としても考えていることですが、インラインのモンスターパーカでも同じようなアップデートが加わっている。ぜひ完成度の高いプロダクトの上に成り立つ、現代的な再解釈を楽しんでもらえればと思いますね。
PROFILE
尾花 大輔
N.ハリウッド|デザイナー
学生時代から米軍基地のミリタリーサープラスに触れ、ヴィンテージ古着にも傾倒。その後、原宿の名店でバイヤーやショップマネージャーとして活躍。2001年に独立し、N.ハリウッドを立ち上げる。SPRING2011コレクションより、ニューヨークへ発表の場を移し、世界的な人気ブランドに。また、ファンスイムを広げる活動、OBANA SWIMMING CLUBを発表するなど、精力的な試みを続けている。
一覧に戻る             →

ARCHIVE