WILD THINGS
ARCHIVE DISCOVERY アーカイブから紐解く
ワイルドシングスのフィロソフィー

BAMBOO SHOOTS | DIRECTOR

甲斐 一彦

WILD THINGS
ARCHIVE DISCOVERY #1

ワイルドシングスが生み出した名品を巡る「アーカイブ ディスカバリー」。このジャーナルでは、長年にわたってワイルドシングスを見続けてきたバンブーシュートのディレクター・甲斐一彦氏が、数々の名品アーカイブを解説。往年の貴重なエピソードを交えつつ、ワイルドシングスのフィロソフィーを改めて深掘りしていく。
「ワイルドシングスはどこよりも
最先端の機能に貪欲だった」
――まずはアーカイブを振り返る前に、甲斐さんとワイルドシングスの出会いについて聞かせていただけますか?

甲斐 1990年代にアメカジを中心としたセレクトショップで見掛けたのが初めてですね。それからデナリジャケットを購入しました。

――当時はどういった印象をお持ちでしたか?

甲斐 まずゴアテックスシェルを使った、インサレーション入りのハイテクなジャケットが珍しかった。そこが目を引きましたね。他にはなかったと思います。当時のゴアテックスウェアといえばマウンテンパーカ。インサレーションといえばダウンが主流でしたから。でもワイルドシングスはいち早く、水に強いプリマロフトをインサレーションに採用したり、最先端の機能を取り入れることに、どこよりも貪欲だったんじゃないかな。ゴアテックスに続く防水透湿素材、シンパテックスやイーベントもいち早く採用していましたからね。デナリはダウン並みに温かいし、タウンユースでも快適だった。またハイテクなアウトドアギアのわりに、デザイン、顔はオーセンティック。当時大人気だったアメカジをはじめ、ファッションとも相性がよかった。だから服好きからの支持が高かったんだと思います。

――甲斐さんがオープニングスタッフを務めた1998年オープンのセレクトショップ、バンブーシュートでもワイルドシングスは洋服好きからの支持が高かったのでしょうか?

甲斐 そうですね。当時はファッションとしてもアウトドアアイテムが大人気でしたし。一着7、8万もするデナリがよく売れていましたよ。

――デナリジャケットの他に、印象に残っているアイテムはありますか?
甲斐 このカタログにも載ってるんだけど、ダッフルバッグのゴートバッグですね。これは当時のアウトドアシーンでも名品と呼ばれていたバッグ。タフなバリスティックナイロン製で、ハンドルを使って背中に背負い、サイドのループを頭に引っ掛けて、荷物を運んだりもできるんです。僕はフリマに出掛けるときや、アメリカに行くときなどに、よく使っていましたね。当時はアウトドアブランドでこういうダッフルバッグって、あまりなかったんです。

――通な名品ですよね。ではここからは、実際に名品アーカイブにフォーカスしてみましょう。アウターからパンツまで、幅広いアイテムを用意してみました。まずはこちらのアウターですね。
‘90sフルジップ
プリマロフトジャケット
甲斐 懐かしい。これはデナリ、シャモニージャケットに次ぐベストセラー、’90年代半ばからあるプリマロフトジャケットですね。いわゆるデナリのインナーをジャケットにしたようイメージで、インナーセーターとしても使われていました。バンブーシュートがオープンした頃は3万円くらいで売ってたんだけど、毎日よく売れていましたね。

――かなり人気があったんですね。

甲斐 あとこれは波状のキルティングが象徴的ですね。アウトドアブランドって軍に納入したい、認めてもらいたいという意識もあったんだけど、これはまさにそうだと思う。ミリタリーのライナーでキルティングを使ってるじゃないですか? 

――ひょうたんキルトやたまねぎキルトと呼ばれるものですよね。

甲斐 そうそう。このジャケットはそこら辺も意識していると思います。あと波状なのは、ウエアでプリマロフトの代表的な使用例が、こういう形だったっていうのもありますね。
‘90s
プリマロフトベスト
甲斐 こっちのウィメンズのベストタイプもそうなんだけど、どちらもリバーシブルで着られたというのも、人気の一因でしたね。タグの位置が胸じゃなくて、裾にあるのも他のアウトドアブランドには見られない、気の利いたデザインでした。2トーンの色使いもいいよね。
2023 SPRING & SUMMERのコレクションでいえば、ユーティリティベストがKEY ITEM。マルチな機能を持つサプレックスナイロンを使い、アウターにミドラーにその名通り、万能な使い勝手を楽しめる。
2023 SPRING & SUMMER
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UTILITY VEST
‘2000s
マウンテンパーカ
――こちらのマウンテンパーカのオレンジも、目を引くカラーですよね。
甲斐 そうですね。ワイルドシングスのデザイナーは女性のマリー・ミューニエール。デザイナーであり創業者でした。女性デザイナーだからか、ワイルドシングスってわりとカラバリが豊富で、オレンジやイエローだったり鮮やかな色使いも特徴だったと思います。先程のベストの、パープルとシルバーの2トーンカラーも女性的な色彩感覚がありますよね。
――言われてみるとそうですね。あとこのマウンテンパーカはシェルとフリースライニングの組み合わせも特徴的です。

甲斐 このマウンテンパーカは2000年代初頭のもので、表地にエピックという超撥水ナイロンを採用しています。エピックを取り入れたのも、ワイルドシングスは早かったですね。それまでにあった撥水加工は生地に撥水コーティングをするため、使ったり洗濯するごとに撥水性が劣化していきます。エピックは繊維の1本1本に防水トリマーを施しているため、半永久的な撥水性と速乾性を両立する革新的な素材でした。
ゴアテックスよりも軽く透湿性に優れ、ライニングにフリースを施すことで保温性も高い。いわばデナリよりもコスパに優れた、エントリーモデル的なアイテムでもありましたね。マリーはとてもアウトドアの素材に詳しくて、僕らもいろいろと教えてもらいました。「あのブランドは、~~っていうクライミングブランドを離れた人が立ち上げたのよ。いいものを作ってるわ」とか、そういう情報にもすごく精通していましたね。
2023 SPRING & SUMMERのコレクションでいえば、マウンテンパーカと同じく、デナリジャケット顔のフロントポケットを備えたシャモニージャケット。中綿なし、メッシュライナー付きの定番アウターで、幅広いシーズンで活躍する。
2023 SPRING & SUMMER
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CHAMONIX JACKET
――次はこちらのパンツを見てみましょう。
‘2000s
コンバーチブルパンツ
甲斐 これはコンバーチブルパンツですね。膝上をファスナーで着脱でき、ロングパンツとショーツ、2wayで使えるクライミングパンツです。クライミングって’60~’70年代までは、摩擦に強い丈夫なジーンズやワークパンツが使われていたんですよ。

――そうだったんですか。

甲斐 写真集『YOSEMITE IN THE SIXTIES』ではパタゴニア創業者のイヴォン・シュイナード。『THE STONE MASTERS』ではグラミチ創業者のマイク・グラハムが、デニムやワークパンツで登攀する姿が見られます。その後、徐々に使いやすさも考えられて、ガゼットクロッチやウェビングベルトが付いたクライミングパンツが生まれました。このコンバーチブルパンツはワークパンツで登っていた頃の名残が感じられますね。丈夫で厚い高密度なツイル。ブッシュパンツを思わせるフロントポケット。ペインターパンツのような二重の補強付きのバックポケット、サイドのスケールポケットなどは、ワークパンツの流れを汲んでいると思います。

――そうなんですね。ワイルドシングスはクライミングパンツも奥が深い。

甲斐 このコンバーチブルパンツの色もいいな。ちなみにワイルドシングスのクライミングショーツも名品だと思いますよ。
2023 SPRING & SUMMER
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LIGHT BACK SATIN
CARGO PANTS
WILD THINGS ARCHIVE DISCOVERY #1はここまで。続く#2ではクライミングショーツをはじめ、まだまだ名品アーカイブたちが登場します。
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